たった一年の学園生活で、どれだけのものが残せるのだろう。
 早くも夏休み、ここまでは本当にめまぐるしく過ぎて行った。
 何してたの? と訊かれても。
 思い出らしいものって案外少ないのだと、実感した。
 なにか…なにか。
 きっと一生忘れられないような何かを、一つでも多く残したい。

 想いの根底にあるのは、そんな憧憬。





<i>Episode.14 『輝ける星』</i>





 夏休み初日。
 午後から、海羽・トキヤ・那月のスケジュールがうまく合ったので、まずは進行について話し合おうということになった。
 校内、学生食堂。寮に残っている生徒たちのためにも、ここはほぼ通常運転だ。
 テーブルに、トキヤと那月は並んで座り、向かい側に海羽。
 そうして話し合いを始めて、少しがたった頃。
「そう言えば、あのお話はどうなったんでしょうねぇ?」
 手元のスケジュール帳。そんなことを言った那月のそれは、十月を開いている。
 思い出した彼の言葉は、明らかに二人に向けられていた。けれど、海羽は首を傾げる。
「あのお話?」
 その様子を見て、
「…もしかして。まだ、あなたまで話が通っていないのでしょうか?」
 トキヤが海羽に問いかけた。
「え、ボクも関係ある話なの?」
「あるもなにも…早乙女さんは、プロデューサーの一人ですよぉ?」
 重なっていく疑問符。答えがない。
 ますます首を傾げた彼女。
 トキヤは、はぁぁ、と深い溜息をついた。
「あの男…言い出しっぺのくせに、何をやっているのだか…」
 そう言ってから、携帯電話を出す。
 どこかへと回線をつないだ彼は、
「<S>     </S>音也。私です。今すぐ、学生食堂にいらっしゃい。…そうですか、ならば七海さんも連れて。えぇ、今すぐです。三分も待ちませんよ、大至急です」
 低い声音で言って、さっさと通話を切る。
「ど…どうしたの?」
「いえ。詳細は、首謀者から直接聞く方がいいだろうと思いまして。学内にはいるようですから、じきに来ますよ」
「う、うん…?」
 まぁいいや、と。それまでしていた話の続きを進め始める。

 そして、ちょうど三分が経過した頃合いで。
「ごめーんっ」
 食堂に駆け込んできた、一十木音也と七海春歌。
「あ、やっぱり海羽さんも一緒! てことはアレだよね? 学園祭のことだよね?!」
 大声で言ったそれを、傍らの春歌が制する。
「一十木君、そんな大きな声ではっ」
「あ、そっか。ごめん!」
 突然賑やかになる食堂内。今は、ここにいる生徒も少なくて、まぁ騒音というほどには嫌がられてはいないだろうが、
「…騒々しい…」
 チッ、とばかりにトキヤが呟く。
「キミが呼んだんだよ?」
「だからこそ余計に忌々しい」
「そんな無茶苦茶な…」
 三人がいるテーブルに、二人もやってくる。
 春歌が、ぺこりと頭を下げた。
「すみません、お待たせしてしまって」
「いえ、きみが頭を下げる必要はありません。そもそもはこの男が悪いのですから。ホラ音也、早く座りなさい」
「はぁーい」
 何故か、男性側と女性側とで分かれる座席。
 見合いか、と。内心で突っ込んだのは海羽だけだったようだが。
 そんな彼女の隣に、お邪魔します、と座った春歌に、
「デートだったの?」
 悪びれず、海羽は問いかけて。
 春歌は、えっ、なんて声を上げてあたふたと。その様を見て、彼女はくすりと笑うと、
「可愛いなぁ。…一ノ瀬、呼んじゃ悪かったみたいだよ? 馬に蹴られる的なアレで」
 本気半分いじわる半分で。トキヤは涼しい顔のままで、
「あぁ、それは失礼しました。でも、責任は音也にありますからね? 言い出しておきながら、肝心の人に話を通していなかったのですから」
 クレームは音也へ、なんて。するっと躱す。
「え、ひどいよトキヤ! っていうか、言う時なかったんだって! 海羽さん忙しそうだし、そうこうしてたら休み始めちゃってたし」
「それは言い訳ですよ。連絡手段はいろいろとあったはずです。それに、あなたが例の件を言い出してから、もう一月以上は経っていますからね?」
「そうだけどぉ…別に、トキヤが話してくれてもよかったのにぃ」
「何を言っているのですか。あなたがどの程度本気かもわからないのに、いたずらに話を拡大しても後で面倒になるでしょう」
「えー、トキヤってば厳しい〜」
「自分の甘さを棚にあげてなんですか」
「ひどいよー」
「ひどくなんかありません。ほら、さっさと座りなさい。話が始まらないでしょう」
 …というような、二人のやり取りを。向かい側から見ていた海羽は、トキヤの隣で微笑ましげにしている那月に、
「いつもこんな感じなの?」
 問いかける。那月は、えぇ、と頷いて、
「オトくんとトキヤくんは、とっても仲良しですよぉ」
「へーぇ。そう言えば、一日一回、どっかの休み時間で必ず聞こえてきてたね。『トキヤトキヤーぁ!』って」
 イントネーションを真似たそれは、春歌の笑顔も誘い出す。
「あ、似てます、今の。一十木君みたい」
「そう? その時の一ノ瀬がもう、そこまでしなくてもってぐらいシッブーイ顔してるんだよ。嫌いなのかなって思ってたけど」
 そんな海羽の言葉を聞いて、えっ、とショックを受けた顔をした音也は、
「ほ、ほんとに? トキヤ、俺のこと嫌いなの?!」
 ねぇねぇ、と。トキヤの二の腕を掴んで揺さぶる。
 トキヤは、眉間に皺を寄せつつ、
「うっとぉしいですよ、音也。早乙女さんも、からかって遊んでるでしょう」
 音也を剥がし、海羽を睨む。
 海羽は、ふふ、と笑って、
「遊んでなんかないよ。事実でしょ。でもね一十木、一ノ瀬はキミのこと大好きだから。心配しなくていいよ」
「えっ、そうなの?!」
「ちょっ、早乙女さん、何を勝手にっ」
「だって。すごーく渋い顔するけど、ちゃんと一十木を受け入れるじゃない。キミ、嫌いな人とは関わりたくもないってタイプだと思うんだけど」
「そ、それは…」
「よかったね、一十木。一ノ瀬がキミのこと好きだって」
「そこまでは言ってないでしょう!」
「照れるな照れるな。キミらくらいの年頃にできる友達は、一生ものになるって言うし。大事にしたらいいじゃない」
 青春だねェ、なんて。年寄りじみた言い方をした海羽は、
「…ま。これ以上横道逸らすと一ノ瀬がキレるからね。この辺にしとこうか」
 わざわざ音也達を呼んだ理由の提示を促した。



 音也の口から出たのは、学園祭の出し物に関する提案だった。
「ミニライブ?」
 内容を反芻して。海羽は首を傾げる。
「そう。一学期にやったユニット課題、あれ見てて、トキヤ達のすっごいかっこよかったからさ。もっとみんなに見てもらいたいなって思って。最初は漠然と考えてただけだったんだけど、そう言えば学園祭があるなって。で、どうせだったら俺達も一緒に、どーんとやれたらいいなぁって思って」
 もうすでに興奮気味の音也を、落ち着きなさい、とトキヤが窘める。
 海羽は、隣の春歌を見やり、
「ハルちゃんは了承済み? 確か、一十木たちの曲ってハルちゃんが作ったんだよね」
 春歌は、微笑んで頷いた。
「はい。わたしはいいと思います、すっごく面白そうです」
「ふむ。…四ノ宮も参加するんでしょう?」
 今度は、向かいの那月を窺う。
「もちろんです。ダンスは苦手なんですけど、みんなでできるのはとっても楽しいですから」
「あっ、マサもレンも翔も、やりたいって言ってたから! あとは、海羽さんだけだったんだ」
 遅くなってごめんなさい、と。音也はぺこりと頭を下げる。
「や、それはいいんだけど。…んー」
 自分のスケジュール帳をめくって、海羽は思案顔で固まった。
 その様を見て、
「卒業オーディションまで日があるとはいえ、あなたは他の作曲家コースの生徒とは違う。ダブルパートナーに加え、在校の維持にも二倍以上の労力がかかる。正直なところ、これ以上の無理はしてほしくありません」
 トキヤが言った。音也も、それがあるから決行はどうしようと悩んでいたらしい。
「海羽さん、クラスかわってしまいますし…Sクラスの皆さんのプロデュースをするの、難しくなるかなぁって…もちろん、ハンデのことも…」
 春歌が、どうですか、と首を傾けて。
「ちょっとひどいよね、あのハンデ。いくら学園長の身内だからって」
 憤った様子で音也が言い出したのを、
「一十木。ボクもおじ貴も了承している件だから。キミたちが怒らなくていいんだ」
 海羽自身が制した。当事者に止められては、音也も黙るしかない。
「でも、早乙女さん。学期最後のあなたの課題は、本当にすごい。構成、完成度、中毒性…世界観の隅々に至るまで。あの出来なのに、降格なんですよね?」
 那月の言葉に、
「あの課題がどんな仕上がりを見せていても、提出されれば在校・降格、提出が間に合わなければ退学っていうラインだったんだよ」
 海羽が返す。いっそ雑と言えるほど、海羽に対する点付けはずさんなようだ。
 聞いた那月は、悔しそうな顔を俯けた。砂月曰く『頭イカレんじゃないかってぐらい聴いてる』ほどなのだから、当然納得は行かないのだろう。
「…ミニライブ、なんだよね。3×3のユニット曲、と? ソロもやるの?」
「できればやりたいよね。レコーディングテストで作った曲とか」
「それって、キミと一ノ瀬はハルちゃんとボクだからいいけど、他の人のは、作曲者に許可もらわないとよくないよね」
「うーん…」
「ユニット曲二曲と、あとは…翔とかキミとかは、結構踊れるんでしょ? ダンスパート入れてみるとかもアリだね。踊らない子は、楽器で参加したりとか。思いつくこと出してみなよ」
 スケジュール帳のフリーエリアを開いてペンを持ち直した海羽に、
「さ…早乙女さんっ」
 少し焦った様子で、トキヤが呼ぶ。
「やるのですか?」
「みんなが乗り気になってるっていうのに、ボクがぶち壊すのはできないなぁ。それに、ボクも面白そうだと思うんだ。各クラスのトップ3とも言えるキミら六人を、この手で輝かせるんだっていうこのワクワク感。たまらないね」
 ニヤリと、どこか不敵に笑んだ海羽は、
「…っていう気持ちをね。持てるようになったのはホント進歩だと思う。この学園に来てから巡り合ったすべてのものが、ボクには奇跡としか言いようがない。みんなへの感謝も込めて、ぜひ…やらせてほしい」
 トキヤを説得するように言った。
 そこまで言うなら、と。トキヤも頷き、話は可決へと流れる。

 出た案を、作曲者二人が検討していく。
 やりたい放題、というわけにはいかないから、と。まずは海羽が龍也に電話をし、学園祭でどの場所だとどのくらいの時間がもらえるものなのかを問い合わせた。
「えっと、講堂のステージだと、十分前後くらいが平均だって。あとのは場所に寄るらしいんだけど、大体は最大で二十分までで予定してれば大丈夫みたいだよ」
 通話を切ってから、海羽は聞いたことを教える。
「最大二十分か。ユニット曲が五分ずつとして、あと十分…」
 うーん、と音也が唸る。
「フルコーラス歌わないのなら、四曲くらいその時間で収められそうですね」
 春歌が言って、海羽が「そうだね」と頷いて。
「新曲を書きおろす? そのステージ用に。課題とかで既出の曲があるなら手っ取り早いけど、このメンバーでってのはないでしょ」
「ステージ用というのは、ちょっともったいないですね。…そうだ、夏休みの課題をその時に歌うのはどうなんでしょう? ありましたよね、選択課題の中に」
 那月が、手帳に挟んでいた夏休みの課題一覧の紙を出す。
「あー、あったね! 寮の同室者がアイドルコース同士の場合に選べるってやつ!」
「あれをやるのですか? 音也と歌うなんて…」
「え、嫌なの?! トキヤ、やっぱ俺のこと嫌い?!」
「言ってないでしょう!」
 またごちゃごちゃとやりだした二人は置いておいて。那月が広げて見せた紙、彼がここですと指差したところには、確かに。
「デュエット曲、か」
「寮が同室であること・どちらもアイドルコースであること。それが条件なんですね」
「夏休みの宿題で出しちゃいますから、学園祭は十月ですし、いいと思うんです。一石二鳥です。お二人に曲を作ってもらえるなら、絶対花丸もらえちゃいますし」
 にこにこと嬉しそうに言う那月に、春歌と海羽は顔を見合わせた。
「どう? ハルちゃん。これで、三曲。あとは、六人で歌うグループ曲でもくっつければ」
「全部で六曲、ミニって感じじゃない気もしますけど」
「メドレー形式にして、前奏とか後奏とかとにかく余分なの省こう。一気に駆け抜ける二十分。演者は結構体力居るけど、実際のコンサートは二時間とかだからね」
「そうですね。どうでしょう、下手に緩急あるよりは、疾走感重視の方が」
「うん。…担当どうする? その、彼らの課題の」
 作曲コース二人の視線が、アイドルコース三人に向く。
 三人は、どこか呆然とした様子で、彼女たちを見ていた。
「…なんか、いきなり“プロデューサーモード”でびっくりした…」
「空気が変わりましたね」
「すっごい真剣。二人ともかっこいいです」
 そんなことを言われて。
 海羽はきょとんとし、春歌は顔を赤くして掌をぶんぶんと振ると、
「カッコイイなんて! カッコイイのは海羽さんだけですっ」
 え、そこなの? と突っ込みたくなるリアクションだ。
 そんな春歌に。海羽はちら、と彼女を見ながら、
「ハルちゃんは可愛い、だもんね。ちょっと羨ましいよ」
 そんなことを言った。
 春歌は可愛い、といつも言っていることだが。その後についた言葉は、その場にいた全員が耳を疑った。
 羨ましい、などと。彼女がそんなことを思っているなんて。
 意外がられることは、想定の範囲内だったろう。海羽は肩を竦めてから、体ごと春歌の方を向き、
「ボクはキミが羨ましい。見た目もコンパクトで女の子らしくてふわふわで、その上作る曲はキラキラでトゥインクルで元気で可愛い。ボクにない、ボクが欲しいと思うものばっかりだ。そんな自分だったら、どんな人生だったろうって思うよ」
 きっとそれが本音なのだろう。この状況で、嘘や冗談を言っても仕方ない。
 春歌はぽかんとしていたが、海羽がのばした手に指先を掴まれてハッとすると、
「そんな! わたしだって海羽さん羨ましいです! すらっとしてて凛々しくてかっこよくて、作る曲はスタイリッシュでクールです!」
 逆に海羽の指先をぎゅっと握って、力説する。
 春歌の勢いにやや気圧されつつ、海羽は、
「そ、そうかな」
 呟くような小声で。春歌は更に反撃する。
「それに、海羽さんはちゃんと可愛いですよ! いつも男の人の格好してるけど、今日もとってもかっこいいですけど! 仕草とか細かいところはとても女性らしいと思うしっ」
「それはどうかなー」
「っ、じゃあ! 今度、女の人の格好してください! それを見て、皆さんにジャッジしてもらいましょう!」
 ばっ、と顔をあげて。春歌は力いっぱいそれをすすめてきた。
 海羽は、しまった、という顔をして、
「皆さん、ってことは、…学校に着て行けってこと? 制服は…さすがに…」
「夏休み中でもいいです」
「いや、それも…」
「海・羽・さん」
 撤退なんかしそうにない、春歌の圧しに。
 海羽は、
「…じゃあ、そのうちに、でいい? 誤魔化しじゃないよ、約束するから」
 そんな風に言って。
 結局、海羽が圧倒されたおして決着がついたそのやり取りを。正面から見ていた男子三人は、
「本当に…七海さんにはとことん弱いのですね、あなたは…」
 トキヤの、やや呆れた声と。
「っていうか、七海があんなに強く出たとこ初めて見たなぁ」
 意外なことだらけだ、と目を丸くしている音也と。
「面白いぐらい、形勢逆転でしたねぇ。ハルちゃん、お見事です」
 少しズレている那月と。
 海羽は溜息をつき、
「なんでこーなるかなぁ…」
 がっくりと肩を落とした。



 それからしばらく、今いる面子で話し合い、大まかな案が出揃った。
「あとは、マサやレン達にも訊いてみて、まとめてくるから!」
「連絡しますね」
 そう言って、音也と春歌は食堂から出て行く。
「楽しみですねぇ」
 とても嬉しそうに、那月は言って。まだどこか心配そうに海羽を見ているトキヤは、
「課題などで手伝えることがあれば言ってください。少しでも点を稼いでいかないと」
 在校が最優先だと、言葉に含ませる。
 那月もまた、
「僕も、お手伝いしますから。二学期から同じクラスですし、どんどん頼ってくださいね」
 にっこりと微笑んだ。
 その瞬間、二人の間になにやらピリッとした空気が発生したことに、海羽は気づいたものの。やれやれ、と内心で肩をすくめて、
「二人とも、気遣いは嬉しいけど、ボクの方ばっか気にして自分たちのことおろそかにしないでよ?」
 釘をさすことを忘れず。
「肝心の歌い手にいなくなられたら、困るどころじゃないんだから。誰でもいいわけじゃないんだからね」
 けれど、彼女のその言葉に。二人は、それぞれどこか複雑そうな表情をする。
 海羽はそれもスルーした。次の台詞を発そうとした、そのタイミングで。テーブルの上に出してあった彼女のスマホが、ピリリと電子音を鳴らした。
 ひょいと手に取り、画面を見た彼女は一瞬眉をひそめた。そして、
「オーディション用の曲、やりたい方向とかあったらどんどん言ってね。…ごめん、ちょっと外す。五分くらいで戻るから」
 そう言って席を立つと、足早に食堂から出て行った。

 テーブルに残った二人は、しばらく無言で。
 沈黙はやや痛く、耐えがたいと言う程ではないにしても、居心地のいいものではなかった。
 不意に、那月がふっと笑った。
「ハルちゃんといると、早乙女さんは随分違いますよね。彼女のことが好きなんだなって、見てわかるほどに」
 トキヤも、あぁ、と呟き、
「そうですね。よっぽど気に入っているのでしょうね」
 そう答えた。
「…早乙女さんだってとっても可愛いのに。けど、ああやって口に出すほど、いわゆる“女の子らしさ”に憧れているとは思いませんでした」
「自身の可愛さは、本人ほど知らないものです。それに、早乙女さんは意図して“かっこいい”を演出している気がします」
「えぇ。彼女は、可愛らしさを羨ましいと言い憧れを持ちながら、求めようとはしていない。女の子でいるより、男の子でいたいという気持ちの方が強いみたいです。どうしてなんでしょうね」
「……さぁ。訊いたところで、教えてくれるとは思えません」
 そう言った後。トキヤは、小さく付け足した。『今はまだ』と。
 今は、そこまで踏み込めない。踏み込ませてはくれない。
 でも、…いつかは。
「…トキヤくん」
 那月が。あまり大きくない声で、トキヤを呼ぶ。体を向き合わせたりもせずに。
 トキヤもまた、那月を見はせずに。
「負けません」
 そう、言い切った。
「…えぇ。僕も負けませんよ。トキヤくんのことは好きですけれど、これは譲れませんから」
 なにを、とは。二人とも言わなかった。
 けれど、お互いに指しているものは同じだろうと言う確信があった。
 自分と同じ行動をとっている、それが根拠だった。
 ハンデを知っても。担任に説得されても。
 求める手を下ろさなかった、のだから。
「…ですが、あからさまに対立をすると、間違いなく怒られますからね」
「そうですねぇ。嫌われちゃうかもしれませんから、ソレとコレは別、ということでいましょうね」
「あれで案外、友人間の諍いなどには敏感なようですから」
「おねぇさんだから、ですよ。みんな仲良くしなきゃダメ、って」
「あぁ…なるほど」
 なんのかんので、年長者としての癖が出ているのは間違いない。
 負担にだけはなりたくない、と。二人、同じことを思っていた。
 一緒にいることを、苦にしたくない。“誰でもいいわけじゃない”という彼女の言葉を、大事にしたい。
 最後に、『キミでよかった』と言わせたい。言ってほしい。
 <S>     </S>彼女に、選ばれたい。
 シンクロする願いを胸にしまい、
「一等星になりたいですねぇ」
「そうですね」
 その会話ののち、二人は小さく笑った。


 ややして戻った海羽が、なんとなく二人の雰囲気が違うかな、と感じつつも急用が入ってしまったことを二人に告げて、今日のミーティングは終了となる。
 “一等星に”
 誰よりも輝きたい…彼女にだけ見える星でもいいから。



<Div Align="right">2013.09.13 初アップ
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</Div>