メインエントランス前に真斗が到着したのは、約束の時間の10分前。
 日中パークで遊んだ客と、これからパレードを見るために訪れている客とが入れ替わるように流れていく、その様を。流れから外れたところで見ていた。
 こういう場所自体、ほとんど経験がない。父は忙しく、母は体が弱く。こんな娯楽とは縁遠かった。
 だが。言っている場合ではないのだ。
 直接評価はされない“課題”。けれど、きちんと学ばなくてはいけない。
 経験の一つとして、積み重ねられるように。
 
 何より彼女に、「楽しかった」と言ってもらうために。




<i>Episode.19 『Fire Flower(後編)』</i>




 渋っていた割に、海羽はちゃんとした姿でその場所に現れた。
 真斗の母が贈った浴衣と帯。飾りは間に合わせかもしれなかったが、雰囲気を壊すことはなく。ないと言っていた履物も、キチンと浴衣の雰囲気に合う下駄。これはおそらく、龍也が手配したのだろう。早乙女学園には衣裳部屋があり、一通りのものは揃っているから、そこからの支給に違いない。
 長い髪はおろしていて、両サイドだけを上にあげて頭の天辺でお団子に結われている。そんな可愛らしいスタイルも、学園の皆が見たら相当驚くに違いない。実際、真斗は声も出ないほどに驚いた。この人込みだから、呼びかけて居場所を示したかったのに。
 驚いて、途端にこみあげてきた感情は一体なんなのか。
 ぎゅう、と胸が締め付けられるような感覚。外せない視線、けれど名も呼べない自分。
 日の暮れかかる、暗くなり始めたその世界で。彼女のいるあたりだけ、光を放っているように見えた。それが、どういうことかもわからない。
 ただ。
 …早乙女海羽は、とにかく何を着ても目立つのだ、と真斗は思い知った。
 涼しやかに整った顔立ち、装いに応じて薄く化粧をしていると知ったのは、彼女の唇がにわかに光ったのを見たからだ。
 振る舞い方も、和装の女性を意識しているのか楚々としていて。いつものザックリ感は表に出ていない。

「…悪い言い方をすれば、化ける、なのだろうか」
 パークに入り、少し歩き始めてから。会話をどう展開させていいかもわからず、けれど彼女ならある程度は許容してもらえるだろうという甘えのもとに、心の中の言葉をもらせば。彼女は小さく笑って、
「この程度でそんなこと言ってたら、この先もっと驚くかもよ? 女の子のビフォーアフターは、ほんと、魔法なんじゃってぐらい違う子もいるんだから」
 いつもと変わらない、気さくな口調。
「そ、そうなのか?」
「騙されないようにね」
 どれほどなのだろう、と考え込んでしまう真斗に。海羽はまた笑って、
「もっとも、キミは外見で惑わされるような凡庸な男ではないのだろうけれど。…容易く心動かされない、って解釈でいいんだよね?」
 彼女の言い方は、少し意地悪くもあった。
 要は“朴念仁”ということだろうが…物は言いようだ。
 真斗は、しばらく言葉に詰まって。やがて、
「今は、目指すものがあるからな。他ごとを考えていられるほど、余裕もない」
 苦笑を返した。
 彼女も、そう、と呟いてから、
「ボクもいっぱいいっぱいだよ。まさかこんなことになるなんてね。おじ貴の言うなりに学校に来て、でもボクの生きる道はここからつながってた。目指すものを…視野に入れたら、絶対に負けられない戦場に立ってしまったのだと知った」
 一瞬だけ立ち止まる。一歩先に行ってしまった真斗が振り返ると、彼女は小さく頭を横に振って歩き始めた。
 黒髪が、照明を映して艶めく。
「とりあえず、当面は学園祭なわけだけどね。キミらを、とびっきりにキラッキラな王子様に仕立て上げて、ご来場のお客様全員のハートを残らず刈り取るくらいのステージにしないと」
「それは、あなたがどうこうというよりも俺たちがそのつもりでやらねばどうにもならないのでは」
「もちろんだよ。せっかく、あの神宮寺までやる気になってくれたんだから。キミらが持ってる光を、どんだけ増幅できるかってのがプロデューサーの勝負どころさ。お膳立てが悪くちゃ、キミらだってうまくやれないだろ?」
 そう、言ってから。
 彼女は、不意にふふっと笑い、
「だめだ、聖川。これ、デートの会話じゃないよ。ごめん、ボクのリードが悪いな」
「えっ」
「なんて言うかこう、高校生のデートっぽくない。会話が社会人だった」
「そ、…そうだろうか…?」
「うん。可愛くない」
 どーしたもんかな、と。苦く笑う彼女を見つつ。真斗は、きょろりと周囲を伺った。
 自分も、正直『どーしたもんかな』だ。ならば、周りに倣うのも手段の一つ。
 なにしろ、本当に全く見当もつかない。今のように、話題が学園のことに移るのもよくないのだろうか。二人の共通の話題など、今はそれくらいしかないのに。
 この場に合う話題も、気の利いた言葉も。まして、お互いに興味のあるものもわからない。
 …そうなるともう、“形からはいる”くらいしか、手段が思いつかなくて。
 さしあたり、手を繋ぐ、あたりを…と。真斗が思い切ろうとした、その時。
 不意に、周囲の人の波が大きく動いた。
「っえ?」
 何が起きたのかはわからない。ただ、真斗のすぐ隣にいたはずの海羽が、その流れに連れて行かれているのは事実で。
「およよよ?? え、ちょっ…」
 押し流されるまま、彼女が人の波に飲まれていく。
「ひ、聖川っ!」
 彼女の、手が。真斗に伸ばされたのを。今ここで掴まずしてどうするのだとばかりに、真斗も必死で手を伸ばす。かろうじて触れた指先を、真斗はがしりと捕えて、なんとか彼女をその波の中から引っ張り出した。
 手繰り寄せ、また飲まれてはかなわないからと彼女を抱き寄せたまま、人の流れから外れる。
「あー、びっくりしたー」
 なんだったの、と。彼女が振り返る。けれど、人だかりばかりでまるで状況がわからない。
 やがて、足早に駆けていく人々の言葉を聞くだには、どうやら今日のパレードにはシークレットゲストが来ているようだということだった。それを見るために、一斉に人々が動き出した結果の…下手をすれば、大惨事だ。
「怪我は?」
「ん、大丈夫。いやー、いきなり持ってかれたから取り乱しちゃった」
 簡単に襟やらを直し、海羽は一息つく。真斗は、まだ流れを警戒しているのか、彼女を囲うように腕に入れている。
 二拍ほど、そんな真斗を見てから。
「聖川って、本番に強いのかな」
 彼女は言った。
 真斗はきょとんとして、彼女を見…て、その距離の近さ加減と、自分が何をしているのかを理解した。
「や、これは失礼…」
 慌てて離れようとする、が。海羽は真斗の袖を掴んで、
「なんでさ。正解でしょう、ちゃんと“彼女”を守ったわけだし」
 不思議そうな顔をする。
「難しく考えなくていいよ、聖川。実際、予定や計算通りにすべてが運ぶわけじゃないんだから。話すことだって、目に見えるものの感想とか、そういうのでもいいんだし」
 一瞬忘れかけていた困惑を、彼女はちょいと呼び戻して。真斗がまた不安げな顔をするから、それを払拭するように海羽はニコリと笑むと、
「デートの仕方とかは、人によるとは思う。だから、正解ってのはない。聖川は聖川のやり方で、自分と相手とが…一緒にいられてよかったと思うような時間を作ることを考えればいいんだ。ボクは、キミに点数つけたりする気ないし。でも、さっきのは高得点だな。普通の女の子だったら、ときめいちゃってるとこだよね」
 自分は例外だと潜ませて。けれど、自信持っていいよ、と真斗の背を叩く。
 そのはずみで、なのだろうか。彼女の頭の上、お団子部分を止めていた飾りがぽろっと落ちた。
「あ」
 一番大きな飾りが落ちたせいか、そのまま髪はしゅるしゅるとほどけてしまい、次々にピンが地面に零れていく。
「ありゃりゃ、ダメかー」
 暗い中でそれを拾い集めようと海羽はしゃがむが、ピンの色も黒だからちっとも見つからない。仕方がないから飾りのついたピンだけ拾った。
「ボクの髪さ、丈夫って言うか、髪質が少し硬いんだよね。ハリがあっていい、って言われるけど、こういう髪型すると反発しちゃって。針金かっつーの」
「予備のピンは?」
「ん? あるよ、持ってきてる」
「櫛も?」
「もちろん」
「そうか。ならば…」
 真斗は、周囲を見回した。人々はみんなパレードに向かっているから、そのコースから少し離れたところ辺りは広く空間が開いている。ちょうどそこに、無人のベンチを見つけて。海羽の手を引くと、そこへ向かった。

 まるで、それさえも芝居のワンシーンのような。
 そう思ったのは海羽で、理由としては…すぐそばに街灯があるせいで、スポットライトが当たっているかのような状況だからだ。
 ベンチに座らされ、真斗は櫛をよこせと言った。そして、今、海羽の掌には髪を止めるピン各種。
 小さな鏡しかないから、見ながらやっても意味がないとのことでそれは膝の上に置いてある。様子は見えないまでも、櫛とピンと彼の手が頭頂部辺りでせわしなく動いていて、…海羽は完全に“おまかせ”状態だ。
「妹ちゃんに、してあげるの?」
 黙っているのもなんだから、会話はそこそこに。
「ああ。だが、真衣はまだ小さいからな。髪もここまでは長くもないし」
「いいお兄ちゃんだね」
「…そうだろうか。良き兄たれと心がけてはいるが、うまくいっているのかどうか」
 今回の帰省でも、あまり相手をしてやれなかった。思い出し、真斗は溜息をつく。
「そっかー。カワイイんだろーなぁ、聖川の妹」
 ふふっと笑った、彼女の様子を上から見下ろして。真斗も笑む。
 その様子を、通りすがりの客が見て。
 声が聞こえた。

 『わ、イケメン! って言うか、すごいお似合い』
 『ああいうカップルいいねー』
 『彼氏に髪やってもらうとか、うらやましー!』

 年の頃は、真斗と同じくらいだろうか、女の子が二人、こちらを見ながらそんなことを。
 ぴた、と。真斗の手が止まり。
「…イケメンだって。そりゃーまー、アイドル候補生だもんね」
 よかったね、と彼女がちらりと上を見た。真斗は頬を赤くして固まってしまっている。
「聖川?」
 呼びかけると、彼は「何でもない」と呟き、気を取り直したようにまた作業を始める。
 海羽も正面に向き直った。
 …そうか、男子校って言ってたか…意識内で呟いて、ナルホド、と理解。あんな風に言われることにも、真斗は慣れていないのだろう。
「どーなんだろ。聖川は、妹キャラの方が好きかな」
「は?」
「可愛い感じの彼女の方が良ければ、それで行ってみようか。ちょっと図体でかいから、見た目から可愛さが出なくて申し訳ないけど」
 また、真斗の手が止まる。少し、間があいて。海羽の頭上から溜め息が聞こえてきた。
「…できたぞ」
「あっ、ありがとう!」
 膝に乗せていた鏡を取って、彼女は出来栄えを確認する。その、硝子の中に。真斗が映った。困惑しているような表情の彼と、鏡越しに目が合う。
「聖川…?」
 使った物を手早く片付け、彼女は立ち上がる。
 向き合った。
 彼女は不思議そうな顔をし、真斗を見て。真斗は、言葉を探しているのか、少し目が泳いでいる。
 やがて、
「できれば、あなたにはあまり演じてほしくない」
 真斗はそう言った。
 海羽はきょとんとし、
「言うほど演じはしないよ」
 返すのだが。
「それでも、…」
 言いよどんだ真斗に、海羽が首を傾げた。
「模擬、ではあるかもしれないが。俺としては、本番のつもりでここに来た。そのぐらいの気概でいなければ、得るものも得られないと思ったから」
「う、うん…?」
「だから、あなたには自然なままでいてもらいたい。例え、課題の中の…設定上だけのものでも、あなたは俺の恋人なのだから」
 真斗がやりよいように彼女が合わせ過ぎてはダメなのだ、と。
「俺の方も、演じている、とあからさまにわかるようでは駄目だろうからな。極力自然にと努める。だから、できれば、あなたは普通に楽しんでいてほしい。不慣れゆえ、ぎこちなくはあるだろうが…あまりに立ち回りがひどい時は、遠慮なく言ってくれ」
「…うん、わかった。じゃあ、あらためてよろしくね」
 彼女の笑顔に、真斗は心のなかで気合を入れ直した。
 行こう、と。つなぐ手を、先に出したのは真斗。さっきまではどうしようどうしたらとぐるぐるしていたが、今はそう無理もなくその行動に出られた。
 彼女の手は案外冷たく、細く、柔らかく。華奢だと感じた。
「あんまり近づかなくても、パレードは結構見えそうだし。そろそろ花火タイムだから、流れも落ち着くんじゃないかな」
「ああ。また攫われてはかなわないからな。少し離れたところで見ていようか」
「そーだね」
 人の垣根の向こう、煌びやかな一団が園内を練り歩く。
 美しい衣裳、眩しい照明…それは、二人が目指す場の風景に似て。
 きれいだね、と言いながら景色を見る彼女を見て、ふと過っていった“希望”を、真斗はそっと意識の奥にしまった。
 今はせめて、この手を振りほどかれることがないよう、努めるだけだ。








 電飾をふんだんに使ったパレードは、予想以上の派手さと美しさで客を魅了していた。
 惜しみなく打ち上げられる花火。
 光の洪水、という表現はありきたりだろうかと言った真斗に、海羽は、
「ボクも同じこと思った。ありきたりかな、通じてて嬉しいって思うけど」
 そんな風に返して。
 その時こみ上げた…けれどそれは幾度となく真斗の意識に広がったものと同じだったが…感情の正体を。真斗はついに、観念して受け入れた。
 あぁ、これが。
 状況に引っ張られたのでなければ、この気持ちの名は、おそらく<S>   </S>。


 正味一時間のナイトパレード。終了と共にパークは閉演になる。
 帰りのバスを待つ列は果てしないほど長く、タクシーもひっきりなしに客を乗せては入れ替わっていく。
「…結局? 何枚撮ったの?」
 真斗の手の中にあるデジタルカメラをのぞいて、海羽は問いかけた。
 今回の最大の目的は、“浴衣を着た海羽の写真を撮る”だ。園に入って間もなく、一枚撮り。その後も、折を見て真斗はシャッターを切っていた。
「何枚…だろう。数えずに撮っていたから」
「いや、見ればわかるよ」
「どこを?」
「えーっ?! これ、聖川のデジカメだよね?!」
「…持ってはいたが、使ったことはなくて。歌詞作成の資料などに風景を撮ることがあるやもと求めたものなのだが…」
「使ったげなよ」
「そう思って、今日、持ってきた」
 …そうですか。
 貸して、と。海羽は真斗の手からデジカメを取り上げ、いろいろとボタンを押したりしてみている。
「んー、んー、ん。ここのボタンでね、カメラモードと撮ったものの確認…ギャラリーモードの切り替えができるよ。画面の下、枚数出てる。今の画素数なら、あと何枚取れるよって言う目安と…」
「う、うむ」
「…お母さんに、写真、送れる?」
 不安になってきた。そんな彼女の心配に、
「これごとじいに渡せばいいかと」
 ザックリとした答えが返る。
「まぁ、見られて困るようなものを撮ってなければそれでもいいけど」
 撮影の内容は、海羽だけにとどまらず。パレードの様子や、園内の飾りなども写っていた。一通り確認した彼女は、これなら大丈夫か、とデジカメを真斗に返す。
 そうしてから、
「…そう言えば、二人で撮らなかったね」
 それどころか、真斗が映っていないと気が付いた。
 真斗は笑って、
「あなたの姿を撮るのが目的なのだから、俺はいいんだ」
 などと言って。
 けれども、彼女の表情が不機嫌にむくれたから、少しギクリとして。
「デート。聖川、デートなのに彼氏とツーショット撮らないとか、そんなのってないよ」
「そ、そうか?」
「…よし、セルフで行こう。自撮りってやつ」
「地鶏…??」
「コーチンとかの話はしてない! 聖川、今のジドリは変換おかしいね?!」
 明るいとこ行こう、と真斗の腕を引いて場所を移動する。
 そして、選んだ場所で。
 海羽はまた真斗のデジカメを取り上げると、
「近接…だと、モードこれかな」
 呟きながら、設定をして。
「はーい、お願いしまーす」
 カメラを持った腕を伸ばし、あいている方の腕で真斗を側に寄せる。
「お、おいっ」
 驚いて、慌てて離れようとする彼を、
「あ、こら。離れたら入んない。しっかりして、アイドルさん」
 更に腕にしがみつくようにして距離を固定する。
 アイドルさん、と言われて。確かに、仕事となれば誰が相手でも写真は撮られるのだから、と真斗は自分に言い聞かせる。
「…撮れている様が見えないが」
「自分がどう撮られるかくらいわかるでしょ。自撮りは基本だよ、ブログにアップとかでも使うよ。ほら、笑ってね」
 肩をくっつけて、顔を寄せて。ふわりと漂った彼女の香りに、また真斗は動揺する。けれど、
「いくよー」
 の声に、とっさに笑顔を作った。戸惑っている場合ではない。
 彼女の指が、シャッターボタンを押した。ピピッ、という電子音と、カシャというシャッター音。
「どうかなー」
 海羽がデジカメを操作して、今撮ったものを画面に出す。
 寄り添って映る二人は、なかなかきれいに撮れていた。けれど、
「…なんだろ。もしかしてボクら、顔のつくりが似ている…?」
「む…かも、しれないな…」
 比較対象が真横にあると、改めて気づく。恋人、というより、これは……。
「やっぱアレ? おにぃちゃん、とか言っといたほうがよかった?」
「遠慮する。しかし、…むぅ…」
 これで実は、母同士が友人ではなく従姉妹だったりの血縁だと言われても、違和感はない。そのぐらい、二人の持っている要素が似ていた。
「…聖川さ。今度女装しない? それで写真撮ってみよう。キミ多分ママ似だと思うから、ちょっと面白い写真になりそうだ」
「丁重にお断りさせていただく」
「なんでさ。お互いに過去の母親のコスプレで、再現写真みたいなの。女学生時代とか」
「…あなたも着るのか? 確か母上の通っていた学校の制服は、セーラー服だったと」
「キミにだけなら見せてもいいよ、セーラー」
 返答に、真斗はぐっと言葉を詰まらせる。取りようによっては随分と意味深なことを言われた。けれど、彼女はそういうつもりなどないのだろう。悪戯を思いついた子供のような目をしている。
 なるべく、今の発言について考えすぎないようにしながら。真斗は画面の中の二人を見た。
 けれど、浮かんでくるのは大差ない内容ばかりだ。
 この至近距離を許したのはどうしてだろう。龍也の突発課題だとは言え、律儀にこなして。あれほど嫌がった浴衣姿、結局何が原因で嫌がっていたのかもわからなかった。
 
 <S>     </S>知りたい。
 
 他の学友たちが相手でも、今日のような模擬デートをするのだろうか。
 惜しみなく笑い、学園で見る姿とは違う様子を見せるのだろうか。
 普段の男前ぶりなどどこへやってしまうのか、“女性”として振る舞う彼女は可愛らしく、美しく。こんな彼女の隣に自分でいいのだろうかと、真斗は何度も心で呟いていた。
 けれど、これが他の誰かだったらと思うと…そう、思うだけで息が詰まる。
 先ほど自覚したその“感情”は、もう撤回できそうにないのだなと思い知る。
 それと同時に、脳内におりる現実も。



 臨時のバスに乗り、二人は学園の敷地まで戻る。先に社員寮近くで停車することもあり、海羽はそこで降りた。
 じゃあね、と手を振った彼女を、窓越しにしばらく見て。真斗は溜息をつく。
 その頃にはもう、車内もだいぶ空いている。ただ、不思議なことに、学園の関係者は誰も居ないようだった。
 だからこそ、か。真斗は自身の胸中が顔に出てしまっていても、それをどうにかしようとは思っていなかった。
 今は、それでいい…と。
 次に会うまでに、きちんと切り替えておかなければならない。
 抱えているこの想いは、誰かに知られてはいけない…まして、本人になどもってのほかだ。
「…消えるさだめ、か。まるで……」
 手の中。今日の思い出を画面に呼び起こす。
 笑う彼女の向こう側、夜空に浮かぶ美しくも儚い華。
 
 自覚の瞬間に咲いたのがこの炎の華だとするならば。
 やはり末路も同じなのだろう。
 宵闇に消えていく、花弁と同じく散る。
 まだ、しばらくは無理そうだけれど。
 彼女という華は鮮烈すぎて、真斗の心からは当分消えそうにない。
「…どこかに書き留めておくか」
 深く吐息して、真斗は座席にもたれた。


 恋なるものは、花火のようだ…と。