<span style="color:#0000FF">本編外のエキストラストーリーです。
海羽視点、聖川くんのパートナーの彼女と。
時間軸としては、Episode18.19の後辺り。</span>

<HR>

 聖川のパートナーは、Aクラスの女の子。
 ぱっと見た目はあまり目立たない、けれど色白の可愛い子。ショートヘアに、アンダーリムの眼鏡がカタい印象だけれど、いつも一緒のお友達と居る時は、柔らかな表情で笑っていたりする。
 ボクと会うのは、どういうわけか購買が多い。
 直接話したことはないけれど、遭遇率は結構なものだと思う。
 放課後、授業がすべて終わってから。生徒たちがそれぞれに時間を過ごし始める頃。
 彼女はいつも、同じところを見て溜息をついている。

 パンの棚だ。




<i><strong>EX.“Girl’s Side” 『キミとカレとメロンパン』</strong></i>




 一学期中もそんな感じだったけど、まさか夏休みにまでとは思っていなかったから。
 つい、
「…どうしたの?」
 声をかけてしまった。
 彼女は、こっちがびっくりするぐらいにびくんと身を震わせて、そろっと振り返った。
 …ちょっと傷つくな、そこまで神妙にされちゃうと。
「あ、み、海羽様」
 取り巻きでない子にまでそう呼ばれるのはなー、と。即座に思ったから、
「様、なんていいよ。二学期からクラスメイトなんだし。えぇと、サエリちゃんだったよね?」
「あ、ハイ」
「仲いい子からは、確か“サリー”って呼ばれてるよね。あれ、可愛いなって思ってたんだ。ボクもそう呼んでいいかい?」
 彼女は、なにやら頬をそめつつ、ハイ、と小声で答えた。
「いつも、パンの棚見てるよね。なんか欲しいものがあるの?」
「あ、えぇと…その」
「ここの購買、結構売り切れ早いからね。食べたいのがあるなら、ボクも見かけたときに買っといてあげるけど」
 学園内購買部“サオトメート”は、いっぱしのコンビニ並みの品ぞろえをしているうえに、雑誌にも取り上げられてしまうほどの名品ぞろいだ。オリジナルのお菓子やパン、スイーツなんかは本当に争奪戦で、混雑を避けるためにも入荷時間を知らされないぐらい。欲しいものを手に入れるためには、そうした連係プレーも必要になってくる。
 サリーちゃんは、ええと、と目を泳がせた。
 そして、
「実は、その。メロンパンがほしいんです」
 そう言った。
「メロンパンて…“さおとメロンパン”? おじ貴が作ってるやつだよね」
 それも、ここの名物の一つだ。
 こくん、と、彼女は頷く。
 確かにあれは、最も激しい倍率の商品。
「売り物でないとだめ?」
 ボクの問いかけに、彼女は首を傾げた。ボクは、周囲に人がいないことを確認してから、彼女の耳元に顔を寄せると、
「…内緒なんだけどね。商品としてちょっとっていう、規格外品? ああいうの、おじ貴がくれる時があるんだ。そんなんでもいいなら、あげられるけど」
 おじ貴はあれで結構神経質で、ちょっと形が悪いとかでもはじいてしまう。そういうのを、おやつでもらったりしてるわけなんだけど。
「味は一緒だけど、キレイなほうがいいのかな」
「あ、えーっと…」
 どう? と。彼女の表情を覗き込む。あ、ゴメン、ちょっと距離近いかな?

 そんなタイミングで。
 不意に、かつん、と靴音がして、
「さりぃ」
 と、声が聞こえた。
 また、びく、と。サリーちゃんが震えたから、おや、と思った。
 今の声、
「…珍しい組み合わせだな」
 やっぱり。
 出たな、朴念仁め。
「前から親しかったか?」
「なんだよ、親しくちゃいけない? いや、確かに親しかったわけじゃないけど。たった今、親しくなったんだよ」
「……神宮寺か、その言い回し…」
「別に、聖川のパートナーってことは知ってるよ? 取ったりしないから安心してよ」
「なっ」
 ありゃ、赤くなっちゃって。おっと、サリーちゃんもか。
 なんだこの、初々しいのは…。
 あ、っと。待って、メロンパンって。
 確か、聖川の好物って…
「サリーちゃん」
 ボクは彼女を呼んで、ちょっと、と腕を引っ張った。こそりと棚に隠れるようにして聖川と距離をとる。
「もしかして、メロンパン欲しいのって、聖川のため?」
 こそっと言った、瞬間。
 ほんとに、ぼふん、と音がするんじゃないかというぐらいに、彼女が真っ赤になった。
 普段おとなしくてちょっとクールな子が、こうなっちゃうと…なるほど、ギャップ萌えを理解した。
「あー、だったら、キレイなののほうがいいよね。うん、おじ貴に訊いてみる。店頭出しする前に、一個でいいから買わせてって」
「あああ、あの、海羽様、ごごご誤解してないですかかか」
「音飛びしてるよ、サリーちゃん」
 こんな面白可愛い子だったんだ、サリーちゃんて。
「パートナーのために、好物を調達するなんて、いじらしくてボクは好きだけど。応援しちゃうよ」
 にこ、と笑ってみせると、彼女はさらに顔を赤くして…あぁ、なんか熟して美味しそうな色になってきたなぁ…なんて。
 そっか。みんな青春してるなぁ。
 ボクは、うんうん、と頷いて。ひょい、と棚の向こうを見た。
 不思議そうな顔しちゃって。そういや、聖川、彼女のこと愛称で呼んだけど、なんか…どう聞いてもアレ、平仮名だったよね…。ま、らしいっちゃらしいけど。
 そろそろ返してやるか、仕方ない。
「聖川」
 軽く呼ぶと、彼は目線で返事をした。なんだ、というセリフがついていそうな感じで。
 ボクは、サリーちゃんを彼のほうにずいと押し出すと、
「こっちの用事は済んだから。ごめんね、キミの大事なパートナーちゃんを借りちゃって」
「みみみ、海羽様っ」
「ななな、何を言ってっ」
 二人して音飛びしてるよ。なんだ、気が合うんだなぁ。
「またね、サリーちゃん。今度、お茶でも行こうよ。キミのお友達も一緒にさ」
 ひらひらと手を振って、ボクは購買を後にする。買うものは買ってあったから、サリーちゃん見かけなきゃとっくに帰ってたわけだし。
 …あぁ、でも。物陰に隠れて覗いていたい…気もするけどね。



 次の日。おじ貴に訊いたら、夏休みの間は“さおとメロンパン”を作る数を減らしているのだとかで。どうりで遭遇しないと思った。
 キレイな奴一個頂戴と言ったら、二つくれた。誰かと食べると思われたかな、ボクじゃないんだけど。
 それを持って、寮のサリーちゃんの部屋へ行き、
「はい。二人で食べてね」
 と渡せば、また齧りたくなるような赤い頬。
 サリーちゃんの部屋には、仲良し組がそろっていて。ボクは邪魔しちゃ悪いと思ったからパン渡しただけで捌けたんだけど、なにやらボクが名指しで来ちゃったことに騒然としていた。やだなぁ、キミらのパートナー君たちには敵いませんよ?(ボクだって、彼らはかっこいいと思うもの)
 そういや、当然知ってるものと思って普通に渡してきちゃったけど…まさか、お友達には内緒の恋だったとかってことないよな…? 
 あ、やっばい。まずいことしちゃったかな。でも、これで引き返して確認するのも違うよね。結局ばれる。
 ごめんねサリーちゃん、気が利かなくてごめん。
 あと、…知らなかったとはいえ、キミの王子様とギリッギリのカンケイでほんとにごめん。取り返しのつかないとこまではしてないから、それで納得しといてください。
「…誤解されないように、立ち回り考えないとな…。乙女の恋を邪魔するわけにもいかないし」
 二学期から気を付けるよ。
 すごく気を付ける。
 





<HR>



【後書きという名の言い訳】
やっぱり他の子にもパートナーいるんだから、女の子側からのお話書いてもいいじゃない…と生まれたサイドストーリーです。
サエリちゃんは『御神紗江里』という名前で、実家はお酒を作っています。おとなしく、常識人ですが、口があまりうまくない…と、設定したものの。そんな子が聖川くんのパートナーって、そのコンビ大丈夫なんだろうかと心配になった次第。
書いてて楽しかったです。
他の子も書きたいです。